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ドラえもんは地球滅亡を回避できたのか?映画『のび太の宝島』ネタバレ考察

ドラえもんの映画といえば、私の中では2004年以前の旧声優版のイメージがとても強いです。

そんな中、アマゾンプライムで新声優版である『のび太の宝島』が配信されていたので何気なく観てみたら、とても面白かったです。

しかし物語の中でいくつか気になる点が3つあったので、今回は私なりに考察してみました。

気になった3点の考察


子ども向けの作品において、こうした考察をするのは野暮なのではないかとも感じています。

しかし監督は『映画ドラえもん のび太の宝島』今井一暁監督インタビュー - メディア芸術カレントコンテンツにおいて、


大人も鑑賞に堪えるものにしていきたい


と発言していたので、きっとこの先品は「考察できる余地が与えられている=しっかりと物語が練りこまれている」のではないかと思いました。

なので更にこの物語を楽しむために、自分が気になった点を以下で考察してみます。

タイムパトロール隊はどこに?


物語の中に登場する海賊船は過去も未来も自由自在に行き来しながら財宝や地球のエネルギーを集めており、さらに船の中には「遺伝子の保存」のために様々な動物が保管されていました。

ドラえもんの世界観の中では、このような行為は違法なのではないかと思います。しかし劇中では一切タイムパトロール隊の姿が見当たりません。

このことから推測できるのは、「海賊船は建前として研究のために運行している」のではないかということです。

船長であるシルバーは海賊船を操縦していますが、元々は妻のフィオナの研究のために船が運行されていました。


つまりこの船は「世界的に優秀な科学者であるフィオナが、研究のために様々な認可を受けて運行していた」可能性があります。


つまり劇中において、シルバーはタイムパトロール隊から見逃されているのではなく、それを逆手に取り偽装して悪用しているのではないかと思いました。

地球滅亡の原因は?


地球滅亡に関する大事なキーワードとして、地球のエネルギーというものがあります。

ただのお船じゃないわ
地球の力を少しだけ分けてもらって
みんなが幸せになれるお船なの


フィオナがまだ生きていた頃、彼女は子ども達にこう説明しています。

この際、フィオナのデスクモニターに映っている映像には、船から地球の中心(コア)に向かって赤と青の2本の線が出ています。

理屈は不明ですが、恐らくこれは地球と船とを循環(もしくは再利用)するエネルギーシステムのようなものだと考えられます。

「やっぱり君はすごいよフィオナ!
まさに夢のエネルギーだ!」

「まってジョン まだ不完全だわ
地球磁場のデータが予測と違う」

「誤差の範囲じゃないのかい?」


フィオナが亡くなる前に、シルバーとフィオナはこのような会話をしていました。

まず地磁気観測所|基礎知識|Q&Aによると、「地球磁場があることで地球は宇宙線(宇宙からの高エネルギー粒子)や太陽風(プラズマ)の影響を受けずにすむ」ということが分かります。

しかし、もしこの地球磁場がなくなれば、生物の突然変異や絶滅を引き起こす可能性があります。そしてこの地球磁場は、遠い未来には必ずなくなると予測されています。

つまり「船が原因で地球滅亡が起こる」のではなく、「船を運用する(地球のエネルギーを利用する)と地球滅亡に近づく」のだと思います。

ですがフィオナはもちろん、地球のエネルギーを吸い尽くすために船を設計したのではありません。


彼女は地球と共生するために、「地球からエネルギーをもらい、かつ地球にエネルギーを与える船」を作ったのではないでしょうか。


しかしフィオナの計算では誤差が起きています。つまりこのまま船を運用し続けると「地球のエネルギーはいずれ枯渇し、地球滅亡の時期が早まる」ことが考えられます。

つまり船の運用をやめたとしても、遠い未来で必ず地球は滅亡する。それがこの映画の前提なのだと思います。

あと細かいところで気になったのは「なぜドラえもんとのび太は地球のエネルギーに直で触ったのに助かったのか」という点ですが、それは海賊船に乗り込む前にテキオー灯を浴びていたからあの程度で済んだということで…どうでしょう?

地球滅亡は回避できたのか?


結論からいうと、「滅亡を回避できた可能性は高い」のではないかと思います。

シルバーは2250年から2295年へタイムマシンを飛ばして未来を見ていました。つまり滅亡までのタイムリミットは、彼らが生きているであろう時代よりも45年先の未来であり、シルバーの子供であるフロックが大人になるまでです。

そしてフロックは物語の終盤、シルバーが組んだプログラムを打ち破るという描写がありました。その姿に、シルバーはフィオナの面影を見ます。

シルバーはフィオナが亡くなった後、彼女の意思を継ぐために研究を重ねました。しかし彼はそれを成し遂げることができず、出した結論が「地球を捨てて宇宙に暮らすノアの方舟計画」というものでした。


そんな父を超えたのが、彼の息子であるフロックです。


フロックなら、母や父さえもなし得なかったことができるのではないか。そんなことを思わせるような力が彼にはありました。

そのことから、「地球滅亡の未来は回避された可能性が高い」のではないかと思います。しかしあくまでこれは可能性であって、本当に回避できたかどうかはまた別問題だと思います。

フィオナの願いと地球の未来


地球のエネルギーを奪うことを止めたのび太たちに、シルバーは「なぜそこまでできるのか」と問いかけます。

地球のエネルギーを持っていかれたら困るから
それに 悲しいから
親子なのに…パパと争うなんて僕だったら悲しいから!


のび太のこの発言は、甘くて、優柔不断で、実現不可能な感情論のようにも思えます。

しかしのび太のこの意見こそが、フィオナの願いそのものなのではないでしょうか。

ねえ ジョン
この子たちには人の幸せを願い
人の苦しみを悲しめる
そんな人になってもらいたいわ


このフィオナの言葉は、映画『のび太の結婚前夜』で出てきたしずかの父のセリフとほとんど同じです。

しずかの父は、「のび太は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ」と言いました。


つまりフィオナは、自分の子ども達にのび太のような人になって欲しいと願っていたのです。


のび太がいたからこそ、フロックは強固なプログラムを突破することができました。

それは、「不可能なはずの地球滅亡の未来も変えられるかもしれない」という示唆なのではないかと思います。

この子たちは私たちの宝物
子どもたちの未来を頼むわね


地球を、子どもたちを、人々を、全ての未来を守ること。それがフィオナの願いだったのです。

宝物…


「ノアの方舟計画」が失敗し、フィオナの言葉を思い出したシルバーは、崩れた壁から見える景色に目を奪われます。

木々が生い茂り、鳥がいて、光に溢れ、自然がある世界。それは紛れもなく、地球にいたからこそ見ることができた光景です。

フィオナや子ども達がいた、あの頃の自宅にある植物庭園のように美しい景色。だからこそシルバーは心を取り戻したのかもしれません。

「ごめんなさい
父さんが苦しんでるのを分かってたのに
寂しくて」

「フロック セーラ
家に帰ろう」


フロックは家出をしていました。それでものび太達と出会うことで人の痛みが理解できるようになり、成長することができました。

そしてシルバーもまた、のび太達と出会うことで心と家族を取り戻したのです。

「君たちはまだ何もわからない子供だ
犠牲を払わずに守れるものなどない!」

「僕たちはまだ子供だよ
分かっていないことだらけだよ
でも 大人は絶対に間違えないの?
僕たちが大事にしたいと思うことは
そんなに間違っているの!?」


今の地球環境問題のことを考えると、正解は誰にも分かりません。

いつか必ず地球滅亡の日は訪れます。フィオナも、シルバーも、フロックも、のび太も、全員が誰にも解けない難問(クイズ)に挑んでいるのです。

それでもフィオナが望んだのは、のび太が望んだのは、「家族みんなの幸せ」でした。

そして最後には家出をしていたのび太も家(=いつもの日常)に帰り、お父さんから「宝島」の小説を託されるのです。

感想


私は以前『天気の子』の映画を観ましたが、『のび太の宝島』と扱っているテーマは同じなのではないかと思いました。


共通しているのは、「未来は大丈夫だよ」ということです。


少しだけ違うのは、『天気の子』は『君の名は。』からの還元…「僕自身の実感や時代の気分をエンターテインメントに」新海誠監督インタビュー | ダ・ヴィンチニュースにもあるように、『天気の子』は「世界は救えない(救わなくていい)」という結末だという点です。

それは、かつてのシルバーのような価値観で作られている、とも言い換えることができます。

そして『のび太の宝島』では、「世界は救える(それでも救いたい)」という結末だということです。これは反対に、のび太の価値観ですね。

もちろん、それらには正解も不正解もありません。

それで地球が壊れてしまってもいいの?
自分たちだけが助かればいいの?


ドラえもんは劇中で、こう言いました。しかし、ドラえもんやのび太達は必ずしも正義の存在ではありません。なぜならそれは、ただ一つの意見に過ぎないからです。

「またいつか 必ず!」
「未来を頼んだぜ!」
「フロックならできるよ!」


ラストのジャイアンやスネ夫たちの言葉は、製作者からのメッセージでもあるのではないかと思います。

みんなで協力して、地球と暮らしていくことを模索する。それは地球だけじゃなく、人と人との関係でも同じです。

綺麗事かもしれませんが、私はこのメッセージを教えてくれた『のび太の宝島』がとても好きです。

子どもたちに未来を託すこと、未来を信じること。この心を忘れない限りはきっと大丈夫だよ、と言われたような気がしました。



挿入歌の『ここにいないあなたへ』もとてもよかったです。間違いなく子どもも大人も楽しめる名作だと思います。


脚本家の川村元気さんがノベライズ版を書いてます。川村さんが『天気の子』を企画したと知って驚きました。

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