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どうして兄妹は好きになっちゃいけないの?漫画『恋風』ネタバレ感想

どうして兄妹は
好きになっちゃいけないんですか


これは『恋風』の、とあるシーンでの言葉です。

この言葉からわかるように、『恋風』は実の兄妹の恋愛がテーマになっている漫画です。

まっすぐに純粋な、七夏の問いかけ。私はこの問いかけの答えを、未だに出すことができません。

なぜ兄妹は恋愛をするのか?


「兄妹の恋愛」と聞くと、ロミオとジュリエットのような、華々しい禁断の恋をイメージするかもしれません。

しかし、この作品で描かれる恋はあまりにもリアルで、人によっては「気持ち悪い」とすら感じてしまうほどです。

でもだからこそ、そこで描かれる恋は、悲しいほどに美しく映ります。


さて、なぜ兄妹は恋愛をするのでしょうか?


結論から言うと、人間にはそういうメカニズムがあります。

「ジェネティック・セクシュアル・アトラクション(GSA)」という言葉をご存知でしょうか?

これは、たとえ血が繋がっていたとしても、離れて暮らしていた近親者が再開すると、性的な魅力を感じてしまうという現象のことですね。

つまり、近親者同士の恋愛は、ファンタジーではなくリアルに存在することなのです。

兄妹での恋愛については、以前海外でも話題になっていましたね。


news.infoseek.co.jp


他にも、同じように近親相姦を描いた作品で有名なのは、『罪に濡れたふたり』などもあります。


www.kotoshinoefoo.net



さて、『恋風』に話を戻します。

この作品は、兄である耕四郎が、12年振りに妹の七夏と再会することによって、恋に落ちてしまうという物語です。

まさに先ほどの、GSAが起こっていますね。

ただ、この『恋風』の物語を、こういった現象に当てはめてしまうことは、すごく味気ないことだと思います。

なので3つの観点から、耕四郎と七夏の心情について、考察していきたいと思います。

二人の恋の始まり


二人が出会うきっかけになったのが、駅のホームで桜の花びらが舞っていた場面です。

彼女に振られた耕四郎と、好きな人に振られた七夏は、この出会いで初めて、桜が咲いていることに気づきます。

そしてその後、失恋の悲しみから思わず涙してしまった耕四郎を、七夏は優しく受け入れます。

だってねお母さん
お兄ちゃん
そんなに強くないんだ
きっと


のちに耕四郎は、そのことがとても嬉しかったと語っています。

七夏がやさしくて
ただ なにも言わずに
触れてくれた


誰だって、自分のことを受け入れてくれた人のことは、好きになると思います。


自分の弱さを受け入れてくれたこと、そして優しくしてくれたこと。


それが、耕四郎が七夏を好きになった理由です。

それがどんなにいけないことだと理解していても、その気持ちはどうしようもできません。

一方で、七夏が耕四郎を好きになった理由は、とてもロマンチックに描かれています。

雨の降る日に駅まで迎えに来てくれたこと。一緒に買い物に付き合ってくれたこと。満員電車の中で痴漢から守ってくれたこと。

好きになってしまう理由としては、十分すぎるほどです。

私 お兄ちゃんが好き


銀杏の葉が舞う中で、七夏は耕四郎に向かって、まっすぐそう伝えます。

しかし耕四郎は、七夏のその想いに応えることはできませんでした。

耕四郎は側から見ていても、七夏に好意を抱いていることがわかります。でもそれを悟られたくない、そんなわけないと、自分で自分を否定します。

なにやっても
だめなときはだめ
手に入れたくても
入らないものは
ある……


耕四郎は、ずっと自分を抑圧して生きてきたのだと思います。

それは両親の離婚が関係しているのかもしれないし、振られた彼女が原因なのかもしれません。

そんな中、耕四郎は、自分とは正反対の七夏に出会いました。

でもきっと、耕四郎は自分とは違う、そんな七夏に惹かれたのだと思います。

ああ
俺はどうしたって
どこまでいったって
駄目なんだろうかな
こんなきもち
はじめてだったんだ
なのに――


耕四郎の表に出せなかった感情が、七夏と出会うことで初めて露わになりました。

だからこそ、七夏の純粋な言葉が、耕四郎には刺さったのだと思います。

現実の象徴「千鳥」


いい年して妹に
実の妹に劣情抱いてます?
なんだそれ
最悪
変態じゃん


千鳥のこの耕四郎に対する言葉は、「私たち読者の代弁」なのではないでしょうか?


私が一番最初に『恋風』読をんだ時は、七夏の年齢ととても近かったです。

でも、それから何年も経って、耕四郎と同じくらいの年になって初めて、この作品を本当に理解できたような気がします。


なぜなら、年を取ると、耕四郎のことを気持ち悪く感じてしまったからです。


七夏と同じくらいの年齢の時は、耕四郎に対してあまり嫌悪感を催すことはありませんでした。

それは多分、私の見方が変わってしまったせいなのだと思います。

そして千鳥や、現在の私の考え方は、「あまりにも世間という名の常識に囚われている」のです。

目の前で
不幸に足突っ込み
そうになってる人間を
ほっとけないでしょうが

不幸とか
おまえが決めんな


このシーンの意味が、今なら痛いほどにわかります。

だって耕四郎に「やめときなよ!」って、どうしても言いたくなっちゃうよね。

でも私たちには、彼らを不幸と決めつける資格なんて、持ってないのです。

恋なんて
自分の幻想
相手に重ねてる
だけでしょ


もしかしたらその恋は、自分の幻想を相手に重ねているだけかもしれない。


じゃあ本物の恋って、一体どこにあるのでしょう?


それは、「兄妹は好きになっちゃいけない理由」にはならないと、私は思います。

家族の関係


わたしのゆめは
びようしになることです
けっこんもします
子どもはたくさんがいいです


幼い頃に描いた七夏の夢は、結婚して子供を産み、美容師になることでした。


しかし耕四郎と恋をすることは、その夢が叶わなくなることを意味します。


そんな中、二人はまるで逃避行でもするかのように、海へと向かいます。

ごめんな
俺……
どうしたらいいか
わかんねーから……


海を見つめながら、耕四郎はぽつりと呟きます。

すると七夏は、笑顔でこう言いました。

私 生まれかわったら
お兄ちゃんの
妹じゃない子になる
だからそのときは
およめさんにしてね


私は『恋風』の中で、このシーンの七夏の言葉が一番悲しくて苦しいけど、大好きです。

七夏のこの言葉に込められた意味や、言われた耕四郎の気持ちを考えると、どうしようもなくなってしまうのです。

だから七夏
おまえはもっと
自由になればいいんだよ……


だからその後、こう言った耕四郎の気持ちが、とてもよく理解できます。

そして耕四郎は、母親に「これからずっと結婚はしない」と宣言しに行きます。

母親に「悪いことをしているの?」と問われた耕四郎は、言葉を返しませんでした。

そして、ただ「好きな人がいる」ことだけを伝えます。

いつでも俺のとこにおいで
俺 もうどこにも行かないから
いつもお前のそばにいるから


耕四郎は七夏にそう告げ、二人は「家族」になったのです。


この物語は、「兄妹の恋愛」と同時に、「家族」もテーマになっているのだと思います。


恋人の好きと、家族の好きは、一体どう違うのでしょうか?

また、好きとは相手に対して、どうすることが一番良いことなのでしょうか?


私には、その答えがわかりません。


一緒のようにも思えるし、まるで違うようにも思えるのです。

タイトルの意味


「兄妹の恋」をテーマにしたこの作品は、どうして『恋風』というタイトルなのでしょうか?


辞書を引くまでは、なんとなく「美しく素敵な恋の風」というような意味で『恋風』と名付けられたのかと思っていましたが、違いました。


正しくは、「恋のせつなさ」を表している語句だそうです。


こんなに綺麗な言葉なのに、意味はとても物悲しい。

それは、『恋風』というタイトルなのに、近親相姦という重いテーマを扱っているこの作品にぴったりだと思います。

恋の美しさは、まるで美しい光景を見た時の気持ちと似ています。そして兄妹の恋愛は、胸をしめつけられるように切ないです。


美しいのに、どこか切ない。


それが、『恋風』なのだと私は思います。

二人の行方


耕四郎は、何度も七夏を諦めようとしました。

母に操まで立て、七夏にも「もっと自由になってもいい」と告げ、距離を置こうともしました。

けれど七夏は、そんな耕四郎を諦めることはできませんでした。

ずっと……
待ってるね……


そして耕四郎もまた、そんな七夏を諦めることはできませんでした。

いいか?

はい


ラストではついに体を重ね、二人は本当の意味で結ばれます。

しかし、千鳥との関係はすれ違ったままだし、二人の思い出の遊園地も閉園してしまいました。

それはまるで、もう以前までの日々には戻れないことを、暗示しているかのように思えます。

俺がしたことは無意味だった
おふくろに会いに行った意味も
家族四人で食事した日のことも
全部嘘になってしまった


恋をするということは、何かを失うということでもあるんだと思います。

たとえば普通に恋愛をして、結婚をして、場合によっては子供を産み、家を買う。

もちろんそこには責任が発生し、お金や時間が膨大なコストとして失われてゆくでしょう。

では、例えばそれが、年の離れた者同士の恋愛なら?異国籍なら?同性なら?不倫なら?兄妹なら?


何も失わない恋など、果たしてこの世に存在するのでしょうか?


だけど
唯ひとつ
嘘じゃないことがあって――


嘘じゃないことは、ここにある。
失ってしまったけど、それでも得るものはあった。


それが、耕四郎の答えでした。


もしかしたらこの先、二人の「恋」は終わって、離れ離れになるのかもしれない。

あの時千鳥が言ったように、七夏も大人になったら、耕四郎のことを気持ち悪く感じてしまうかもしれない。

だけど、七夏が笑って過ごしてくれるのなら、それでいいような気もします。

七夏
好きだよ


そう言った耕四郎の言葉に、七夏が笑顔で応えることで、この物語は終了します。

願わくば、いつまでも二人が、幸せでいてくれますように。



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