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届け、むきだしの心。漫画『ナナとカオル Black Label』ネタバレ感想

この物語は、ナナとカオルが「心を通い合わせる」までの物語です。

以前、過去の記事で本編についてレビューを書きましたが、今回は外伝である「ブラックレーベル」についてのレビューです。


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なお、外伝である「ブラックレーベル」は、本編を読まなくても大丈夫かとは思いますが、できればぜひ本編を読んだ後に楽しんでいただきたいです。

なぜならその方が、ラストの感動もより一層大きくなるかと思うからです。


アングラ版「君に届け」


私は基本的に『ナナとカオル』シリーズのことを、『君に届け』と同じ恋愛漫画だと捉えています。

どちらも私が大好きな漫画の一つですが、しかし一方は男女の恋愛を描いた王道な少女漫画、もう一方はSMがテーマの青年漫画です。


どこが一緒なんだ!?


と思われる方もいるかもしれません。でも大丈夫、私は大真面目です。

私が同じだと思っているのは、「心を通い合わせる」というところです。そしてそれが、歪か、そうでないかの違いだけなんだと思います。

好きな人がいる。そしてその人に、気持ちを伝えたい。たったそれだけなのに、伝わらない。もしくは、伝えることができない。


その本質の部分は、二つとも共通しているように思います。


そしてそれは、「好き」という言葉で伝えても良いし、ぎゅっと力強く抱きしめても良い。

だったら同じように、SMを通しても良いのではないでしょうか?

もちろん行為自体には、お互いの理解や協力なくしては成り立ちません。でもそれは、抱きしめることと同じなのだと思います。

だって、やめてと言っているのに抱きしめるのも、やめてと言っているのに叩き続けるのも、悲しいことだと私は思うからです。

今回レビューするブラックレーベルは、キャッチコピーの言葉通り、そんなもどかしいナナとカオルの「ステップアップSMラブコメディ」なのです。

二組のパートナー


ブラックレーベルでは、主に「ナナとカオル」「更科(さらしな)と満子(みつこ)」の二組の関係が対比されます。

そして、ナナとカオルの二人は、「今後あり得るかもしれない未来の自分たちの姿」を初めて目の当たりにします。

更科と満子


二人…
「出会えた」と思えたこの二人が
この二人 で…も
互いの気持ちを
確認できない なん…て


1日目の夜は、更科の新作小説の流れを掴むために、更科と満子とカオルを交えた3人で役を演じます。

更科と満子の二人の絆を確かめたいと思い、見学として参加したナナは、彼らの行為を見たことでショックを受けてしまいます。

自分たちよりも、何倍もの密度で繰り広げられる世界。そして、そこまでしなければお互いの愛を確認できないのだ、とナナは理解するのです。

私達は
愛しているという「言葉」では
届かないのだよ
むきだしになって初めて
ようやく…実感できる


この更科の言葉のように、「むきだし」が物語のテーマになるのではないかと思います。

むき出しの心は、いつだって歪で、汚くて、目を背けたくなるほど醜いものです。でも、その心に触れて初めて「愛」を実感できる。それが更科の答えです。

カオルの手によって満子の顔は、あられもない姿になってしまいます。

醜く歪んだ
本当のお前の表情(かお)…だ
お前の本質…最も歪で
美しい…


そんな満子の「むきだし」の表情を見て、更科は満足そうに微笑みます。

そして、そんな更科と満子を見て、ナナはショックを受けてしまったのです。


なぜ、ナナはショックを受けてしまったのでしょうか?


更科と満子の関係は、一見すると歪で救いがないように思えます。しかしそれが、当人同士の中で納得しているものならば、何も問題はないはずです。

ナナとカオル


話は逸れますが、実は本編でも、ナナはカオルに「むきだし」の表情を見せています。これまでにカオルは何度も、ナナの本心を引き出そうとしています。

特に本編10巻の85話〜11巻94話の「顔編」では、ナナの「むきだし」の表情を見ることができますね。


さて、話を戻してブラックレーベルです。

あの人が私に与える苦痛と
苦痛によって私が引きずり出されるあの恍惚が
もう
私が”生きている”ことなのよ


夜が明けると満子はナナに、更科と自分の関係について語ります。

一見すると歪な関係のようでいて、それでも私にはその言葉が、満子の「むきだし」の純粋な願いであるかのように聞こえてしまいます。


でも、ナナはそうは思わなかった。


つまりナナは、「自分とカオルと関係」を「更科と満子の関係」に重ね合わせたことで、不安を感じてしまったのではないでしょうか?

ということは、本編のナナは「むきだし」にはなっていたけど、「カオルへの想い」までは「むきだし」になっていなかったということですね。

だからナナは、そこが引っかかっていたんじゃないかなぁと思いました。


…ほら、だんだん『君に届け』っぽく感じてきませんか!?


おすすめエピソード


この「ブラックレーベル」では、全5巻を通して、夏休みの4日間の出来事を描いています。

その中でも、私が特に好きなエピソードを書きたいと思います。

1〜3日目までは「更科と満子」が主役ですが、最後の4日目でようやく「ナナとカオル」の二人をメインで見ることができます。

縄酔い編(2日目)


2巻14話〜3巻19話の「縄酔い編」は、満子の本来のパートナーではないカオルが、満子を縛ることによって「縄酔い」を引き起こそうとする話です。

「縄酔い」とは、縛られることで、まるで酩酊したような状態になることです。しかし、医学的な根拠はない、とも更科は語ります。

それでも「縄酔いは実在していて欲しい」と言った彼の言葉は、自分の行為に自信を持ちたいという、更科の心の弱さの表れのようにも思えます。

そんな中、カオルと満子の様子を見ていたナナが、突然倒れてしまいます。

縛られていない「縄酔い」
…そして そして…
この二人はもう
「出会っていた」のだな…


更科の言葉通り、ナナは縛られている満子に「カオルに縛られていた過去の自分」を投影し、まるで「縄酔い」をしたかのような状態になってしまいます。

…って
しばって…


慌てて駆け寄るカオルに、ナナは自ら「縛って」と、小さな声で懇願します。

カオルの手によって縛られたナナは、うっとりした表情で彼の胸に顔を埋めるのでした。

そこには本編にいた、「カオルに付き合わされているナナ」は存在していません。

ナナは自分の意思でカオルに縛られ、「むきだし」の喜びを感じていたのです。

嵐の夜編(4日目)


4巻31話〜5巻43話の「嵐の夜編」では、いよいよ「ナナとカオル」だけのプレイが行われます。

そこでは、ナナの「むきだし」の欲望が、縄酔い編よりもはっきりと感じ取ることができます。

もっ…と


天井にある梁に吊り上げられたナナは、それ以上をカオルに求めます。
それはナナの、「もっと気持ちよくなりたい」という欲望に他ありません。

そしてカオルは、そんなナナの気持ちに応えるように、己の欲望をあらわにします。

ずっと…
ずっとッ
ナナのあそこッ
奪いたいっ
奪いたいっ‼︎


これはカオルの、紛れもない「ナナに対するむきだしの欲望」です。

フツーじゃないんだ
オレはっ
好きだなんて
言えないくらい
醜く 歪な
弱虫だ


本編でもなかなか表に出そうとしなかった、できなかったカオルの「むきだし」は、とても悲痛に感じます。


自分は「フツーじゃない」から、「ナナを愛する資格がない」のだと。


カオルはいつも、そうやって自分を卑下しています。

手から伝わるっ
縛りから伝わる…
カオルの気持ち
不安?
カオルはまだ迷ってるんだ


そしてナナは、カオルの気持ちに気づきます。

ナナは彼のおかげで「むきだし」になれた。でも、カオルはどうしたら「むきだし」になれるんだろう?


私だっ
私なんだっ
私がッ
カオルを抱きしめるんだッ


そしてナナは、カオルの「むきだし」を受け止めます。

それはカオルが、今までナナの「むきだし」を受け入れてくれたように、彼女もまた彼を受け入れるのでした。

縛った相手への責任
相手を征服する
その怖さ
全部引き受けるんだ


人を愛するということは、お互いに責任を持つことだと思います。だからこそ、それはたまらなく怖いです。

結婚や恋愛もそれと同じで、それは縄ではなく心でお互いを縛ることなんじゃないかなと思います。

相手を束縛し、閉じ込める。程度の差はあれど、本質的には同じことです。

そして更科は、カオルにこう語ります。

…何度も繰り返すが
それこそが
SM(愛しい女を縛ること)の
本質だ


男女とか、フツーとか、歪とかじゃない。「互いを想い合うこと」こそが、愛なのではないでしょうか。

オレッ オレッ!
オレッ ナナのッ
そば…に いた…いよ
ナナといっしょにいたい

わたしっ
…も…


本編ですれ違ってた二人も、ようやくここで分かり合うことができます。

でも最後の最後に、ナナを縛っていた縄が足りなくなります。幾度も縛り続けたせいで、カオルの手にはもう何も残っていません。

届け方が分からない。でも、言葉なんかじゃ伝わらない。


だからカオルは、ナナを自分の両手で抱きしめます。


自分の手で、腕で、カオルは力強くナナを抱きしめ、そして優しく口付けるのでした。

よく…がんばったな
ナナ♡


このシーンは、世の中のフツーの、それこそ『君に届け』にもある、男女の恋愛シーンのように私には映ります。


愛する人に、自分の気持ちを伝えたい。


この作品は、そんな純粋な願いを持った、「男女の恋愛物語」だと思いました。

これからの二人


長い夜が明けて朝になると、二人に待ち受けていたものはいつもの日常でした。

夏休みが終り、新学期の学校で顔を合わせた二人は、どこかぎこちなく見えます。

そんな中、ナナとカオルに、更科と満子から原稿が届きます。それはあの非日常で描かれた、更科の新作です。

それは二人にとっては、紛れもない「本物」でした。

あの非日常は
みんなっ
今(ここ)に
繋がってるッ


そしてナナとカオルは、「むきだし」を伝えるために、部屋の壁をノックします。

きっとこれからも、すれ違いながら、彼らはお互いを求め続けるんだと思います。

それは傍から見ると、歪な関係に見えるかもしれません。でも、相手を欲しいと、どこまでも知りたいと願うその気持ちは、偽りのない真っ直ぐな気持ちなのではないでしょうか。

この物語は、
大学受験を控えた優等生の千草奈々と、
人生の師と出会った幼馴染の杉村薫の、
誰にも知られることのない、
ふたりだけの秘密の夏休み……
高校3年生の最後の夏休みの物語である。


この『ブラックレーベル』の物語は、残念ながらこれで終了です。

しかし、「ナナとカオルの物語」は、きっとこれからも、ふたりだけの秘密の中で続いていくのだと思います。



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ナナとカオル Black Label 1 (ジェッツコミックス)

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こちらは外伝作品です

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できれば本編作品の後に読むのがおすすめです!

本編作品のレビュー

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