陽キャやウェイ系と呼ばれる、いわゆるリア充という人達が苦手でした。
学生時代は教室の隅にいたので、クラスの真ん中で騒ぐ彼らとは、あまり関わり合いになることはありませんでした。
なんとなく「違う世界の人達だ」と心のどこかで決めつけて、そのまま歳を重ねてきたのです。
だから『好きっていいなよ。』も、私とは違う世界の物語だと思い込んでいました。
イケメンが怖い
あれは確か、アニメの番宣だったと思います。
もう6年も前のことなので詳しくは覚えていないけど、でもそこで流れていた曲は確かに、岡崎律子さんの『Friendship』という曲でした。
岡崎さんがいなければ、私は一生この作品に触れることはなかったと思います。
まだ一度もこの作品を見たことのない方は、よかったらこのアニメ公式ページだけでもチラっと見てみてください。
このトップページの右側にいるイケメンの男の子、めっちゃ怖くないですか?
初見のビジュアルだけの印象は、正直めちゃくちゃ怖かったです。
というか主人公の女の子以外、登場人物がもれなく全員怖いです。
しかしこれも何かの縁だと思って、試しに漫画を買ってみました。でもやっぱり漫画も怖かったです。
1巻の1ページ目なんて、すごい意地悪な顔をした二人組のJKが、
あんたって彼氏いない歴何年——?
と言って煽ってきます。
とにかくこの漫画は、めちゃくちゃリア充で陽キャのウェイ系の人達ばっかり出てきます。
だから正直言って、初めてこの漫画を読んだ時の私の感想としては、
・なんだこいつらは
・どんだけ治安悪いんだこの学校
・もうとにかく怖すぎる
まさにこんな感じでした。
それでも私がこの本を読むことをやめなかったのは、主人公の橘(たちばな)めいがいたからです。
橘めいという陰キャ
人は すぐ人を裏切るし
学校生活の中では
誰かを標的にしないとやってられない
バカどもの集まりばっかりで。そんなやつらと
仲よくしたいとか思ってないから友達なんてあたしには不必要。
そうなんです。
いきなりこんなことを言い放ってしまうめいは、私と似ていてものすごい陰キャなのです。
この荒くれどもが集まる学園の中で、めいだけは唯一わかり合えるかもしれない…
私はそんなことを思いました。
実際、めいは友達も恋人もおらず、ただひっそりと教室の片隅にいるような女の子でした。
しかし、あのトップページにいた怖いイケメンのことを思い出してください。
彼はまさに、光の世界に住むリア充だということを…
うわ まじ?
わりぃ…
俺……
そんな軽いノリで黒沢大和(くろさわやまと)は、いとも簡単にめいのファーストキスを奪ってしまったのでした。
なんだこいつは!?めいに何てことするんだ!?
まったく信用できないこの男ですが、しかしこの言動には理由があります。
なんとストーカーに狙われためいを助けるために、恋人の演技としてキスをしたのです。
そんなアホな…という感情と、でも一応助けてくれたし…という複雑な感情を抱えながら、めいと私は1話のラストを迎えます。
ちょっと…
信じてみようかな。
そして2話が始まり、そんなこんなのなんやかんやで、めいは大和と付き合うことになりました。
うそだ…………
ウソダドンドコドーン!!
ふつうの女の子になるめい
いいのかな…
あたしなんかが
恋愛とかして
ふつうに女の子になっちゃっても…
……いい………の?
あの頃のめいを返してよ!と言いたくなるくらいに、ここから彼女は驚くほど「ただの女の子」になっていきます。
なんだか置いていかれたような、でも応援したいような、そんなよくわからない感情が最後まで続きます。
そして、友達がいなかっためいにも、あさみと愛子(あいこ)という女の子の友達ができます。
自分に負い目感じても
つきあってるんだから
好きの優劣は考えるな。好きなら言葉なり行動なりで
ちゃんと相手にぶつけろ。うだうだやんのはそのあとだ。
これは、学校一のモテ男と付き合うことに引け目を感じているめいが、愛子に言われた言葉です。
好きなものを好きと言えることは、当たり前のようで当たり前じゃない。
これは、『好きっていいなよ。』を表すテーマのようにも思えます。
こわい…
黒沢があたしを好きになってくれて
あたしも本当に黒沢が好きになって…自分を全部さらけ出しちゃって…
自分がどうなってしまうのか…わかんない…
想像できない…
こわい…
このめいの言葉は、痛いほどわかります。
だって私も、めいに変わって欲しくなかったから。
そのままのめいでいて欲しかったから、これからどんどん変わっていってしまうめいを見るのが、とても怖いのです。
しかし大和は、めいにこう言います。
俺を好きんなって
わけわかんなくなって
めちゃくちゃになってしまえっ
びっくりしました。めちゃくちゃになっていいんだ…と。
なんだか目からウロコが落ちたようで、そしてこの辺りから、真剣にこの漫画を読んでいる自分に気付きます。
リア充のはずだった人たち
さらに途中から、モデルのめぐみというライバルの女の子が出てきます。
彼女は一見、腹黒くてとても嫌なやつに思えます。
あたしはずっと
努力してきたつもりだわ。
人に対しても自分に対しても
もう二度と
あたしの上に人は立たせない
努力して、今のモデルの座を勝ち取っためぐみは、とても傲慢な人物のように映ります。
夢はパリコレに出ること。そのためにフランス留学をしますが、その夢は叶いませんでした。
でも…
こんなあたしでもいいってちゃんと今のあたしを
認めてくれる人もいるからあたし 今
幸せなんだ。
最後にそうやって笑うめぐみの姿が、印象的でした。
めぐみ以外にも、もちろん色んな人が出てきます。
元いじめられっ子の海や、愛する人を亡くした大地や、不器用で素直になれない蓮。
ずっとめいを追いかけて読んでいたのに、いつ間にかみんなが一生懸命生きていることに気付きます。
好きな人に好きと言えなかったり、素直になれなかったり、間違えたり。
そんなことを考えている内に、ふと、「リア充ってなんだろう?」と思うようになりました。
リア充と非リアの境界線
リア充という人達を怖がって、あんな風にはなれないと、少し遠巻きに眺めていた自分…
自分が幸せになりたいなら
出会った人達を大切にすること好きになった人に
ちゃんと好きということ。自分の幸せは
自分がつくりだすもの大切なものを
自分に つくること
最終巻でめいと大和は結婚し、子供も生まれます。
あれだけなりたかった「ふつう」に、めいはなれたのです。
そこにはリア充の大和も、リア充のめいもいませんでした。いるのは幸せな家族だけです。
『好きっていいなよ。』は、よくある少女漫画と言ってしまえばそれまでです。
だってこれは、「ふつう」を目指していた、どこにでもいる女の子の物語なのだから。
冒頭にも書いた、このアニメのOPの「Friendship」には、友情という意味があります。
もう、「友達なんて不必要」だと言っていためいは、どこにもいません。
私もめいのように、怖がらずに誰かを好きと言えるような人になりたい。
久々に読み返すと、素直にそう思えました。
読むと優しい気持ちになれるので、たまに読み返します。アニメもおすすめです。