もう20年も前の作品になるのに、色褪せない。『ダブルキャスト』は、そんな名作ゲームです。
全編フルアニメーション・フルボイスで進んでいく、画期的なシステム。
だからこそ、この『ダブルキャスト』のクオリティは、とても高いように思います。
みんなのトラウマゲー
この『ダブルキャスト』は、一見するとギャルゲーかラブコメのような可愛らしいキャラクターが特徴です。
しかし同時に、このゲームはトラウマゲーとしても有名です。
さすがに画像は貼れないので、気になる方は試しに「ダブルキャスト トラウマ」で検索してみてください。
めちゃくちゃ怖い顔をした女の子が、返り血を浴びながら笑ってませんか?
そうです。何を隠そうこの女の子が、ヒロインの赤坂美月(あかさかみつき)ちゃんです。
サスペンスと、サイコホラーと、ミステリーに包まれた『ダブルキャスト』の物語。
そんな『ダブルキャスト』の謎を、今回は紐解いていきたいと思います。
赤坂美月の謎
作中では、美月の利き手や一人称がコロコロと変わったり、急に情緒が不安定になったりします。
これはオフィシャルガイドブックにも書いてある通り、美月の中に3人の人格が揺れ動いているからです。
3人の美月
美月の中には、元々の性格である大人しい志穂(しほ)と、双子の姉を模した凶暴な美月と、そのどちらでもない元気で明るい美月という3つの人格が存在しています。
本物の姉の美月は、過去のトラウマから男性不信でした。
そして男から志穂を守ろうとする気持ちと、男に好かれる志穂への嫉妬心から、姉の美月は妹である志穂を虐げ、そして自害してしまったのです。
男と女って意識してギクシャクなんかしたらつまらないよ
と言うように、男言葉で一人称が「ボク」である美月は、常に自分が女であると意識することを回避しようとします。
記憶喪失は、一種の逃避でもあります。志穂の心がこれ以上壊れないように、美月という別の人間になることで、彼女は自分を守っているのです。
しかし、それなら同時に彼女の姉である美月の人格を宿しているのはなぜなのでしょうか?
「美月」という人格
志穂の中にいる美月は、凶暴なようでいて、志穂を守るような行動しかしていません。
志穂の中では、様々な葛藤があったと思います。姉への恐怖、悲しみ、怒り、そして苦しみ…
でも、それでも志穂は、姉の美月を愛していたのだと思います。
志穂は、姉を助けたかった。姉のために言うことも聞いてあげたかった。でも、このままだと自分が自分じゃなくなってしまう。姉がいなくなってしまう。
だからこそ、志穂は美月の人格を作ってしまったのではないでしょうか。
そう思いながら、バッドエンド14の「姉妹」を見ると、より一層彼女の葛藤と悲しさが伝わってきます。
かこひめの寝屋の謎
ダブルキャストの物語のキーワードになるのが、『かこひめの寝屋』という映画です。
作中で主人公は常に、『かこひめの寝屋』の撮影や編集を行なっています。
『かこひめの寝屋』とは、一体何なのでしょうか?
まずはそのシナリオについて、考察していきたいと思います。
映研では、10年前にこの『かこひめの寝屋』の撮影が行われました。
しかし、女優と男優(兼監督)の二人が、ラストシーンの撮影中に校舎の屋上から飛び降りてしまったといういわく付きの映画です。
作中では、そのシナリオの全貌は明かされていません。
なので、作中の合間に映るごくわずかなシーンから、『かこひめの寝屋』について考えていきたいです。
シナリオ考察
“あなたが私を捨てたいことくらい気づいてるわ。そして、憎んでいることも
でもそれが無理ってこともあなたは気づいてる。そうでしょう…”
このお墓で女が話す場面は、「シーン16」ですね。
別れを切り出したがっている男と、それでも必死に男に縋り付く女のシーンです。
“私の‘存在’…あなたはわざと残していったんでしょ?
‘存在’だって手に入れようと思えばできたのに…正直に答えて…なぜ残していったの?”
そして波止場の場面が「シーン8」なので、実はお墓のシーンは、波止場より後の場面です。
物語の流れとしては、
1:まず男が女を拾い
2:女は段々わがままを言い出し
3:男が女を抱えきれなくなり
4:ついに男が別れを切り出す
という感じでしょうか。
そしてラストシーンの、屋上から女が飛び降りる場面に繋がります。
なぜ女は、男の目の前で自殺を図ったのでしょうか?
命綱をつけていたのは女優だけなので、おそらく男優が死ぬ(=心中)というシナリオではなかったはずです。
これまで女は、男の心までもを手に入れようとしていました。しかし、それは手に入らなかった。
つまり、男の目の前で死ぬことによって、女は永遠に男の中に自分の存在を残そうとしたのです。
この『かこひめの寝屋』は、男に依存した女と、女を捨てられない男の物語だったのではないでしょうか?
そしてそれは、どこか美月と主人公との関係にも似ているのではないでしょうか?
バッドエンド9:かこひめの寝屋
このEDのメインは、主人公の友人である二村(ふたむら)です。
二村から語られる、10年前の『かこひめの寝屋』の心中事件の真相。
命綱をつけた女優のロープを、子供がいたずらでこっそり緩め、そして階段を昇ってきた監督をロープで引っ掛けて転落しさせたと言うのです。
そしてその子供は、幼い頃の二村による犯行でした。
最初にこのEDを見た時に、なぜこのエピソードがあるのかわかりませんでしたが、オフィシャルガイドによると、
興味を分散してやろうかと思い、呪われたシナリオ『かこひめの寝屋』を作ったわけです。
とありました。つまり『かこひめの寝屋』はダブルキャストの脚本上必要なトリックで、そのアフターケアのためにこのバッドエンドが用意されていたんですね。
ただ、それだけでは味気ないので、二村というキャラクターの心情を掘り下げてみることにします。
のちに見返すと、二村が初めて『かこひめの寝屋』のシナリオを手にした際、気味悪がることなくただ純粋に褒めていることがわかります。
すごい! まさか僕たちの手で、あの‘かこひめの寝屋’を作ることができるなんて!
これは演技ではなく、心の底から感心しているかのように思えます。
ぼくがここの大学に来て映研に入ったのは、この映画を完成させるため
でないと、死んじゃった女優さんに悪いもの
悪びれるでもなく、映画を完成させたいと主人公に言う二村は、まるであの監督と女優のように、何かに取り憑かれたみたいに撮影を続ける姿と似ています。
彼もまた、『かこひめの寝屋』に心を奪われてしまった者の一人なのかもしれません。
ジェノサイドエンドの謎
さて、冒頭でも紹介したトラウマシーンで有名な、ジェノサイドENDについてです。
このジェノサイドエンドは、美月が映研部員を皆殺しにし、最後には合宿先である別荘に火をつけてしまうというとんでもないEDです。
なぜ美月は、そんなことをしてしまったのでしょうか?
バッドエンド3〜8:狂気
このEDは全て、ジェノサイドエンドに分類されます。
そしてこれは、「美月の好感度が低い=主人公が美月を大事にしないこと」と、「風呂で部長の遥(はるか)との恋愛関係にあると誤解されること」のどちらかが発生条件です。
しかし、これがどうして全員を殺すことに繋がるのでしょうか?
そこでヒントになるのが、オフィシャルガイドブックの説明文です。
【殺戮の夜】は、“僕”と遥が実質的な恋愛関係にあることに対する憎悪の現れと考えられよう。 “僕”と翔子の恋愛(NORMAL1)に対する妨害がないのは、その行動が、志穂と“僕”が出会う以前の時間に属するものだからである。
つまり、美月は主人公から愛されず(場合によっては遥に彼を奪われたと思い込み)、そのせいで自暴自棄になり、その場にいる全員を殺してしまった…ということですね。
しかし、ここで引っかかるのが「翔子(しょうこ)の死に方」です。
遥ならまだしも、美月には翔子を無残な姿で殺す必要はなかったはずです。
翔子の「あるべきはずのもの」
オフィシャルガイドブックによると、浴槽で血まみれになった翔子を引き上げた際、
つかんだ腕の先には本来あるべきはずのものが……。
と書いてあります。
恐らく「あるべきはずのもの」とは胴体のことで、彼女はバラバラに切り刻まれてしまったのでしょう。
どう足掻こうともジェノサイドエンドでは、美月がヤケになって無差別殺人を行い、そして必ず翔子はこの姿で殺されているのです。
主人公の恋愛関係からくる怒りなら、なぜ遥でなく翔子がこんな目に合わなければならないのでしょうか?
そこで考えたのが、「翔子と志穂が似ている」という点です。
番外編であるノーマルエンド1の「翔子」では、唯一主人公と翔子の関係が描かれています。
男の子よりも大きな声で泣き出して、まわりの人たちビックリさせてたでしょ
主人公の語る彼女のエピソードでは、翔子は美月と同じく、泣き虫な女の子ということがわかります。
また、翔子の一人称は志穂と同じく「あたし」でもあります。
僕さ、ずっと心に引っかかってる女の子のイメージがあったんだ
そんな風に語る主人公は、のちに美月と出会い、美月の中にある「か弱い女の子の志穂」の部分に惹かれていきます。
つまり翔子を切り刻んだ美月は、「翔子の中にある志穂」の部分と自分を重ねていたのではないでしょうか。
ラスト:美月と主人公
ボクはいったい
いくつの顔を持っているんだろうそしてどれがボクの本当の顔なんだろう
ゲームの冒頭で流れるこの言葉は、3つの顔を持った美月の言葉です。
そしてダブルキャストという言葉の意味は、「二人の人間が一つの役を果たすこと」です。
二人の人間とは、志穂と美月のことです。彼女たちが赤坂美月という一人の人間を作り上げていたのです。
そしてそれが、グッドエンド1の「ダブルキャスト」に収束します。
でも、もしダブルキャスト が「主人公」と「美月」の二人のことを指すとしたら?
二人で一人の人間になる。それは、ごく一般的な恋愛にも当てはまるように感じます。
女を愛して、男は女を受け入れた。女もまた男を愛し、男を信じてひとつになった。
どこにでもある愛の物語。それが、『ダブルキャスト』なのだと思います。
私はPS版でやりましたが、ディスク入れ替えが面倒ならダウンロード版を買うのがおすすめです。
ルート分岐の説明が分かりやすかったので、とりあえずクリアしたい方にこの攻略本はおすすめです。
100%攻略したい方や、シナリオを深く考察したい方におすすめです。コラムも面白かった!