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なぜレナードは妻の遺品を燃やすのか?映画『メメント』ネタバレ考察

例えば冷蔵庫から飲み物を取ろうとして、自分が何をしようとしたかを忘れたことはありませんか?

するとなぜか、自分が取り残されたような不思議な感覚に陥ったことはありませんか?

メメントの物語では、常にそのような不安に襲われます。

作中の3つの謎について


映画は逆再生でスタートし、主人公のレナードが保持できる記憶と同じ10分間でシーンが区切られます。

レナードは、今何をしているのかが分かりません。そして私たちもまた、今何が起きているのかが分かりません。

映画を観ながら、リアルタイムで混乱する。でもそれがまさに、レナードの置かれた状況そのものなのです。

さて、作中では、レナードや周囲の人々の言動は常に謎に包まれています。


なぜそんなことをするのか?
なぜそんなことをしたのか?


レナードという人物を考察することで、その中でも特に分からなかった3つの謎について、自分なりに解明していきたいと思います。

「やつのウソを信じるな」とは


結論から言うと、テディ「ジョン・G」です。

正確にいうと、レナードの妻を殺害した「ジョン・G」とは別の人間です。しかしデディは、レナードが追い求める男に他ありません。

ではなぜ、それならもっとハッキリと「テディはジョン・Gだ」というメモを取らなかったのでしょうか?

DON’T BELIEVE HIS LIES
(やつのウソを信じるな)


物語の中で重要なキーワードになっているのが、テディのポラロイド写真に記されたこのメモです。

レナードがそのメモを書いた理由が明らかになるのは、映画の終盤です。この物語のラストシーンは、時間軸的には全ての始まりを表しています。

レナードは、まずジミー・グランツという男を殺害します。しかし彼もまた、レナードの妻を殺した「ジョン・G」ではありません。ジミーはナタリーの恋人であり、ただの麻薬の売人でした。


なぜなら本物の「ジョン・G」は、すでにレナードの手によって殺害されているからです。


そしてレナードは、ジミーの着ていた服や靴を奪い、テディの口から真実を聞きます。


彼の妻は「ジョン・G」に殺されたのではなく、レナードがインシュリンを過剰に投与したせいで、死亡していたのです。


君の話は忘れるぞ
君がさせたことも忘れる


しかしレナードはテディの話を信用せず、ジミーの死体を写した写真や、本物の「ジョン・G」を殺した時の写真を燃やし、証拠を隠滅します。


つまり、それは「信じたくない」という、レナードの気持ちの裏返しなのではないでしょうか。


レナードには、真実を認める勇気がありませんでした。

なぜならその事実を信じるということは、「過去の自分の行動が全て間違っていた」ということを認めなければいけないからです。

君がジョン・G
おれのジョン・Gだ


そしてレナードは、こうも宣言しています。

おれが物語を作るって?
君に関しては――
そうしよう


レナードは、自身を正当化し慰めるために、偽りの物語を作ったのです。そのために、テディを悪者にし、犠牲にしました。


そしてそれは、サミーのエピソードについても同じです。


健忘症のサミーと、インシュリンの過剰投与によって死亡したサミーの妻。

このサミーに関しての一連のエピソードは、ほとんどがレナードの作り話であり、実際はレナードと彼の妻の間で起きた出来事なのです。

レナードは精神を保つために、偽りの「サミュエル・ジャンキスとその妻」を作りあげてしまったのです。

サミーのエピソードと同じように、テディという男もまた、レナードを慰めるためのパズルのピースになってしまったのです。

妻の遺品を燃やす理由


物語の中盤、レナードが唐突に、妻が生前に使用していた私物を燃やすシーンが映し出されます。

死んだ妻の私物、つまりは「遺品」ですね。


では、なぜレナードは、妻の遺品を燃やす必要があるのでしょうか?


まず一つ目に考えられることは、テディのメモと同じく、自分を正当化するための行為ですね。

自身で妻を殺したという事実を、「ジョン・Gが殺した」ということに置き換え、それを定着させるために燃やす儀式として、行なっているのかもしれないと考えました。

しかし、それだと個人的にはしっくり来ません。

レナードは本当に、妻の死さえも自分を慰めるためだけに利用している男なのでしょうか?

きっと前にも――
君の物を山ほど焼いた
でも忘れられない


タイトルである『メメント』には、形見という意味があります。

「形見分け」という言葉もある通り、形見とは、「遺品の中でも故人を偲ぶために選り分けられたもの」なのです。


つまりレナードは、妻の私物を「遺品」としてではなく、「形見」として燃やしていたのではないでしょうか。


妻が生きていた頃の思い出を振り返りながら、妻の形見を焼き払うレナード。


それが妻の死を弔うための、「お葬式」なのだとしたら?


ふと目覚めると女房がいない
トイレでも行ったように
でも なぜか彼女は
決して戻らないと知ってる


レナードはあるシーンで、自分に言い聞かせるように、こう語ります。

死んだ妻を、「死んだ」と受け入れるための儀式。


それこそが、レナードが妻の形見を燃やす理由なのではないでしょうか。


恐らくメメントの時代背景では、土葬が主流だと思います。だから、日本のように燃やして弔うという発想にはあまりならないでしょう。

そこでヒントになるのが、レナードは必要のない写真を「破き捨てる」のではなく、わざわざ「焼き捨てている」という行動です。

レナードにとって「記録が存在」しているということは、事実になってしまうのです。だから、見えないところに葬る必要があり、それなら燃やすのが最適です。

レナードは、10分ごとに妻の死を思い出してしまいます。

しかしレナードが、どんなに妻が生きていた証拠を燃やしても、妻が死んだ事実までは消すことができないのです。

ただ いつから1人か
知らずに横たわってる
そんな俺が癒されるのか
時間を知らない俺が
癒されるのか


レナードは、妻の死を永遠に忘れることができません。夜寝て朝起きるたびに、妻が毎日死ぬのです。


私はこのメメントを、「レナードの救済のための物語」だと思っています。


忘れたいけど忘れられない。だからレナードは、妻の形見を燃やし続けるのです。

消えた「I’VE DONE IT」


映画のラストで、一瞬だけレナードの左胸に

I’VE DONE IT
(復讐は終わった)


という文字が刻まれているのを、確認することができます。

そして隣には妻が横たわっていて、愛おしそうにレナードの左胸の文字を撫でているのです。

しかし、そのシーンを思い出すレナードの左胸には、ぽっかりと空白が残っています。


さて、このシーンは、一体何を意味しているのでしょうか?


自分の外に世界はあるはずだ
たとえ忘れても きっと
やることに意味がある
目を閉じてても
そこに世界はあるはずだ


この独白から分かるように、レナードは「自分の中の世界」である記憶を信じてはいません。

だから彼はいつも、「自分の外の世界」である記録を信じているのです。


つまり考えられるのは、「I’VE DONE IT」の文字は、ただのレナードのイメージでしかないということです。


レナードは、妻が襲われた後の記憶を保持することができません。

なのであのシーンは、レナードにとっては「こうなったらいいな」という夢物語でしかないのです。

記憶は自分の
確認のためなんだ
みんな そうだ


レナードは、テディの言った真実を、嘘だと思い込んでいます。

だからこそ記憶ができない自分が「復讐をやり遂げ、その隣には妻が生きていている」というイメージをすることを、誰もがやっている自分を慰めるための妄想だと考えたのではないでしょうか?

しかし、レナードが妻を殺し、犯人に復讐を遂げたのは事実です。

「I’VE DONE IT」のシーンは、レナードのイメージでしかありません。

でも、実際に彼はすでに「I’VE DONE IT(やり遂げた)」のです。


ラスト:レナードという男


これまでの考察を総合して考えると、ある一つの結論にたどり着きます。


レナードは、「今」を精一杯生きているだけなのではないでしょうか。


レナードは、もう新しい思い出を作ることができません。だからこそ、彼は「今」を生きることしかできないのです。

でも復讐しても忘れるわ
何があったかも


とあるシーンで、ナタリーが言ったセリフに、レナードはこう反論します。

たとえ忘れても
やることに意味がある


レナードはきっと、心からそう思っているのだと思います。しかし、実際は違いました。


なぜならレナードは、「今」この瞬間から、前に進むことができないからです。

テディがレナードに対して言った「果てしない夢の追求」とは、まさにその通りだと思います。

彼は、意味が行動になるのではなく、行動が意味になっているのです。

妻が生きてても、レナードは妻が死んだと思い込んでいて、でも妻が本当に死んでからも殺したことさえも忘れて。

そして真実を認めようとせずに、真実に近づく度に証拠を焼き払う。


だからレナードは、いつか妻の形見を全て焼き捨てて、妻が生きていた事実さえも塗り替えてしまうのかもしれません。


失った悲しみ
奪ったものが憎い


かつては妻を愛していた。そして「今」は、妻を失った悲しみを、妻を忘れることで癒そうとしているのです。

妻のことを忘れる方法は簡単です。全ての形見を燃やし、生きていた証拠さえも全て焼き捨て、


「過去の記憶を信じるな」


とでも、左胸に刻んでしまえばいいのです。

記録を偽り、記憶を塗り替え、自分を慰める。そうすれば、レナードの新たな物語が始まるはずです。

これはある一人の男の、「救済のための物語」なのだから。



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メメント

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