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僕たちの夏が終わる。ラノベ『イリヤの空、UFOの夏』ネタバレ考察

この物語は、とてもリアルな、ボーイミーツガールを描いた物語だと思います。

話は変わりますが、私は中学生の頃、『まぶらほ』というラノベが好きでした。今でいうところの、ハーレム魔法学園ラブコメですね。

このイラストを描いていた駒都えーじさんが好きだったので、『イリヤの空、UFOの夏』というラノベの絵も描いているらしい、ということで読み始めたのがきっかけです。

リアルなボーイミーツガール


そんな中学生の私がワクワクしながらイリヤを読んでみると、そこには魔法も、希望も、ましてやハーレムもありませんでした。

誤解していただきたくないのですが、もちろん「まぶらほと比べてイリヤはすごい!」と言いたいわけでは決してありません。まぶらほは今でも好きですし、私は千早派です。


話を戻します。


『イリヤの空、UFOの夏』には、そのタイトル通り、物語中にUFOが出てきます。他にも、戦闘機や宇宙人、しまいには戦争まで始まってしまいます。

しかし、そんな「現実にはありえない世界」と繫がっているのは、ヒロインである伊里野(いりや)だけで、あとはごく普通の人間しか登場しません。

この物語には、魔法も、スーパーマンも、ましてやどんでん返しもありません。ただの無力な人間しかいないのです。


そこにあるのは、ちっぽけなで無力な少年の、身体ひとつだけです。


一見救いのないようなこのお話。最後には一体どうなっていくのでしょうか?

これから書く私の考察は、原作を読んでいないと分かりづらい表現が多くあるかと思います。

なのでそれも含めて、できるだけ原作を読んでからの閲覧をお勧めします。

キャラクター考察


まずは、それぞれのキャラクターについて考察してみたいと思います。

イリヤには登場人物が多く、その時々により主観が変わります。

その中でも、メインキャラについて書いていきますね。

浅羽(あさば)


「——ごめん。答えてくれないんだよね、どうせ」

「訓練中に仲間が死んだの」


これが、浅羽と伊里野の関係性を表す会話のひとつだと、私は思います。

浅羽は、いつも「こちら側の世界」にいます。それもそのはず、彼はただの中学生の男の子でしかないのです。それに対して伊里野は、常に「向こう側の世界」に存在しています。


なぜなら彼女は、宇宙人からの侵略に対抗できる戦闘機の、唯一のパイロットだからです。


んなわけあるか!と浅羽は思ったのかもしれません。なぜなら私も、そう思ったからです。


生きてるうちだって誰とも会っちゃいけなくて、誰とも話しちゃいけなくて、死んだら最初からいなかったことにされちゃうんだって思った。


ですが伊里野の話を聞く内に、どうやら、「これは本当のことらしい」ということに、浅羽は気づき始めます。

そして、そんな浅羽を通して、読者である私も、逃れられない現実と向き合うことになります。


この世界で起きることはフィクションなんかじゃない、現実なんだ、と。


浅羽の言動は、物語を通して常に、見ていてとても痛々しく感じます。
それは彼が、馬鹿で、無力で、情けない、ちっぽけな人間だからでは決してありません。


今、この物語を読んでいる、己の無力さに恥じてしまうからです。


浅羽は自分を映す鏡だ、と私は思います。だからこそ私の目には、彼がとても、もどかしく映ります。

水前寺(すいぜんじ)


水前寺は、いつも浅羽の憧れの存在でした。

なぜなら彼は、浅羽に対して進むべき道を示してくれる、スーパーマンのような人だからです。

彼は、浅羽が本当はやりたいと思っていることを難なくこなし、そして全力で楽しみます。


部長は一体、どこへ行ってしまったのだろう。部長は、なぜ助けに来てくれないんだろう。


しかし、水前寺は物語の終盤で、行方を眩ましてしまいます。

いつも土壇場で、浅羽を助けてくれた水前寺。進むべき道を示してくれた水前寺。そんな彼はもう、どこにもいません。

いよいよ浅羽が頼れる者は、自分以外にいなくなります。

伊里野(いりや)


伊里野はいつも、肌身離さず「浅羽袋」を持っていました。

その中身は、浅羽がゴミ箱に捨てた割引券や、ジュースのおまけのキーホルダーです。


しかしそれは、伊里野にとって、大切なお守りでした。


ぼくに助けてほしい?


浅羽のその言葉に、伊里野は泣きながら肯きます。その肯定は、彼女が今まで生きてきた中で、初めて見せた強い自分の意思でした。


生きたい。


人間なら、誰しもが持っている、当たり前の感情です。そして伊里野は、生きるために、浅羽と逃げることを選んだのでした。

榎本(えものと)


榎本は、自らのことを「伊里野の兄貴みたいなもん」と言いました。

その言葉通り、彼は伊里野のことを、ただの道具や人形などとは、これっぽっちも思っていません。

しかし彼は、伊里野に生きる意味を与え、自らが望んで死地へと向かうために、「ロズウェル計画」を実行しようとします。

本当にすまん。肩の荷が、少し軽くなった。


榎本は、浅羽にずいぶん本音を話していたように思います。

もしかすると、ある意味で彼は、浅羽の存在に救われていたのかもしれません。

椎名(しいな)


なんにも知らない奴の善意なんてただの無責任よ!!


椎名もまた、「ロズウェル計画」の責任者です。

榎本と違う点があるとするのなら、彼女はこの計画に、とても罪悪感を抱いていたということです。

榎本が罪悪感を抱いていなかった、というわけではありません。椎名は、その罪悪感に耐えきれなかったということです。


しかし、この物語に悪役はいません。


後に登場する、吉野という人物がいるのですが、彼もまた悪役ではないと思います。

吉野(よしの)


このキャラクターは、一体何のために存在しているのでしょうか?

浅羽と伊里野は、吉野というホームレスに出会います。彼は元教師か、もしくは教師志望の夢がありました。

そして今は、リュック一つで窃盗や不法侵入を重ねながら、ひっそりと生きています。

そんな吉野の前に、浅羽と伊里野が現れます。女の子を守るために、たった一人で遠い土地までやってきた男の子。その存在は、吉野に忘れていた夢を取り戻させます。

本当に、いい夢だった。


しかし、所詮それは夢でしかありません。吉野はもう、戻れないとろまで来ていたのです。

そして吉野は未遂ながらも伊里野を襲い、浅羽の財布から金を盗み、二人を置いて逃げ出したのでした。


果たして彼は、悪役なのでしょうか?


悪役か、悪役でないかと問われれば、彼は間違いなく悪役です。でも彼に、浅羽や伊里野の責任を負う必要は、全くないのです。

彼もまた、彼が生きるために、彼ができる中で最善の行動を取った。そのことに関しては、誰も責めることはできないと思います。

この物語に、悪役はいません。あるのはそれぞれの人生と、その身体のみなのです。

そしてこの出来事は、浅羽をさらに追い詰めます。

逃避行の果てに


何もかもを諦めた浅羽は、伊里野を残して一人で歩き出します。

もうついてくるな二度とそのツラ見せるな!!


もうたくさんだ、もううんざりだ。彼には伊里野を守る覚悟も、守れるだけの力もなかったのです。

しかし彼もまた、ただの人間でしかありません。なぜなら最初から、無敵のヒーローも、無敵のスーパーマンも、この物語には存在していないからです。


そして伊里野もまた、いとも簡単に壊れてしまうのでした。


伊里野は、記憶を巻き戻し、少しずつ自分を退行させてしまいます。その中で、浅羽は「過去の伊里野」と対話することになります。

そして彼は、伊里野と初めて出会った時にまで遡ります。夏休み最後の日、浅羽と出会った伊里野は、学校に通いたいと榎本に伝えます。

好きな人が、できたから


彼女は、まっすぐにそう言います。これが、彼女の生きる意味でした。

そして浅羽はようやく、目的地へと辿り着きます。しかしそこには、榎本の姿がありました。


「三日後に宇宙人たちとの最終決戦がある」と榎本は言います。


そしてその戦争に、伊里野を出撃させなければ人類が滅びると浅羽に伝え、伊里野ともに姿を消すのでした。

最後の決戦


南の島のコックピットで、浅羽は伊里野の姿を見ます。

お前は死ぬまで戦え——


そこには全身、呪いのような寄せ書きでびっしりの飛行服に身を包んだ、震えて小さくなった少女がいました。

伊里野の記憶は、浅羽に置いていかれた日のまま、止まっていました。
浅羽は、そんな彼女に、覚悟を決めます。

ぼくは、伊里野のことが好きだ


そして何の皮肉か、その言葉は、伊里野にとって一番大きな寄せ書きの一つになりました。

呪詛のようなその愛の告白は、伊里野にとって一番嬉しく、そして一番愛しい、この世界を守るたった一つの誇りになったのです。

それはまるで、兵士が愛する妻の手紙を胸に抱えて特攻するように。

好きな男の子からこっそり盗んだゴミくずをそっとしまい込んで、「浅羽袋」と名付けたように。

わたしも、浅羽だけでいい。


そして伊里野は、胸に誇りを抱えながら、浅羽のために死んでいったのです。

おれは、おれは最後にお前に殺されるんならそれでよかったんだよ!!


この物語の中で、世界を救ったのは榎本ただ一人でした。

「ロズウェル計画」を実行した彼は、誰よりも世界のために動き、考え、そして同じくらいに伊里野のことについても考えていました。

榎本は伊里野の死を、最後まで「浅羽のせい」にはさせませんでした。
彼は、最後に自ら泥をひっかぶったのです。

なぜなら「伊里野を殺した責任」は、誰かが必ず取らなければならないことだからです。

ラストとエピローグ


その罪をすべて我が身に引き受けて地獄に落ちる覚悟を決めていたのは、榎本だけだったようです。


エピローグで椎名は、浅羽に宛てた手紙にこう綴っています。

榎本が最後に負った責任。しかし浅羽には、最後の最後で、その覚悟がありませんでした。

全てをひっかぶって、地獄に落ちて死ぬ覚悟。


なぜその役目は、榎本にあったのでしょうか?


だいたいの物語なら、その役目は、主人公であるヒーロー役に担われていると思います。

でなければ、視点を変えると、この物語の主役は榎本にもなりえてしまうからです。

なぜ、浅羽が主人公なのか?
なぜ、榎本は主人公ではないのか?

浅羽がいるから。
加奈ちゃんにとっては、それで充分だったのだと信じています。


椎名がそう綴ったように、伊里野にとってのヒーローは、浅羽ただ一人でした。


残酷なまでに、この物語は、彼と彼女の物語でしかないのです。


榎本もまた、救われることはありませんでした。なぜならそれは、みんな等しく、この世界では救われていないからです。

たった一人、伊里野を残しては。

終わる、のではだめなのだ。
終わらせるのだ。


彼は一人で、大きなミステリーサークルを描こうとします。

そして、でっかい「よかったマーク」とともに、浅羽と伊里野と、みんなの夏は、終わります。

浅羽は無力な少年です。彼は何も守れず、何も選べず、何も救うことができませんでした。

そしてそれ以外の人たちもまた、無力でちっぽけな存在なのでした。


でも彼は、最後に「よかったマーク」を描くのです。


みんなに見えるように描いた、よかったマーク。それは「よかった探し表」に貼るためのよかったシールのマークです。

それは、彼にしかできない、主人公にしかできない、みんなに手向けたメッセージなんじゃないかなと思いました。



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