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どうか世界が優しくありますように。漫画『ヤサシイワタシ』ネタバレ感想

ふとした瞬間に、ヤエのことを思い出してしまうのです。この漫画は彼女の人生と、その後を描いた作品だと思います。

 
物語常には、主人公のヒロタカ視点で進みます。だからヒロタカ以外の登場キャラクターが心の中で何を思っているかは、基本的にはわかりません。
 
ただ、ヒロタカ視点でこのストーリーを追うと、ある程度ヤエの気持ちはわかるように描かれています。
 

ヤエという人間について

 

彼女はいつも、思っていることをそのまま口に出してまいます。

自由奔放と言えば聞こえは良いですが、悪く言えば幼稚な性格です。彼女はめちゃくちゃなのです。

 

歩かなきゃ進まないっつーかね、歩いてりゃ進むっつーかね
 
彼女は前向きにそう言ったかと思えば、 その次の瞬間には、
 
どーしてもムカツイたら相手かわいそうに思っときなよ。きっとこいつ不幸だから性格歪んでんだなって
 
 
このような言葉を、今日まさに出会ったばかりのヒロタカに言い放ちます。それが、ヤエなのです。
 
彼女は物語を通して、非常に浅はかで傲慢な人物に映ります。でも、彼女の嫌なところは、社会の嫌なところだったり、自分の嫌いなところだったりを反映しているんじゃないのかなぁと思います。
 
だからヤエが救われることは自分も救われることになるし、反対にヤエがダメになることは、安心してしまうのかもしれません。
 
「自分はまだ大丈夫なんだ」と。
 
嫌いという感情は、自分がやりたくないことをやってるから嫌いみたいなところあるんじゃないでしょうか。
 
まるで自分を映す鏡みたいだ、と思います。だから私は、どうしてもヤエのことが嫌いになれないのです。
 

ヤエとヒロタカの対比

 
しかしヤエは、物語の終盤に、あっけなく自らの命を絶ってしまいます。
 
ヒロタカとヤエは付き合っていました。しかし、あることがきっかけで別れてしまいます。
 
決定的なその理由は、考え方の違いでした。ヤエとヒロタカには、ある部分の考え方が全く正反対だったのです。
 
ヤエは、やりたくないことはやらないのです。作中で彼女は「粘り強さがない」と評されていましたが、まさにその通りです。
 
それを象徴するシーンが、車椅子の青年がサークル見学に来るところです。
 
ヤエは彼の入部を反対します。彼が来ても楽しくやれるとは思わない。「それは偽善だ」と。しかしヒロタカはできると言います。「それはやりたくない理由を並べているだけだ」と。
 
さらに決定的なのは、ヤエの元恋人である新城さんに対する思いを、ヒロタカが目の当たりにしたことです。
 
子供つくってやろうかと思ったよ
 
 元々ヤエは、ヒロタカを2番目に好きな人だと宣言して付き合っていましたが、はっきり言ってすごく無神経だと思います。
 
でも仕方ないのかなぁとも思います。彼女はヒロタカに、甘えたかっただけなんじゃないかな。
 
慰めてほしかった。そして自分のことを好きなヒロタカに、ヤエは優しくされたかった。でも、その方法を間違えちゃったのかもね。
 
ちょっとだけ言い方を変えられなかったのかな。ただ一言「優しくしてよ」って言えてたら、何か変わってたのかな。そんなことを思います。
 
 

眩しいヒロタカ

 
もう一度やり直そうと言うヤエに、ヒロタカは無理だと言います。
 
ヤエの一番になれないなら、付き合えないと。ヤエにとってそれは図星でした。
 
 
ほめてもらうためとか、しかってもらうためじゃなくて、あなたのやりたいことちゃんと考えてよ。考えられるよ
 
 
ヤエの返事は、「バイバイ」でした。
 
きっとヤエはもう、正しいことも考えられないんじゃないかって思います。なんとなく心の奥底の方で、ダメなんだろうなっていう漠然とした不安はあると思う。でも、できない。やり方がわからない。
 
そんなヤエの気持ちは、痛いほどわかります。不安で仕方ない、ここはもうダメなんじゃないか、自分はもうダメなんじゃないか。真っ暗で先なんて見えない、押し潰されそうな感覚。
 
期待に応えたいけど、そんなん目指せないよ、できる気しないもん
 
 
そう言ったヤエに対して、眩しい彼はこう返します。
 
 
いいことをいいって言っちゃってやり始めるしかないです
 
 
それは皮肉にも、物語の冒頭でヤエがヒロタカに向かって放った言葉と同じ意味を持っていました。
 
ヒロタカは、ヤエのことを信じていたのです。ヤエは写真家になりたいという夢に向かって、がむしゃらだけと一生懸命に頑張って進んでいる、進んでいける人だと。
 
そしてヒロタカもまた、彼女と同じように進んでいると思っていました。しかしヤエは違ったのです。
 
 
ヤエにとってヒロタカは、眩しく、強かったのだろうと思います。
 
 
でもヤエは弱かった。だからヒロタカには、ヤエの考えが理解できない。どうしてそんなことを言うのだと、そこで立ち止まってしまったのです。
 
「気分が上向いたわ」と笑う彼女は、本当は孤独で孤独で仕方がなかったんじゃないかな。ヒロタカとは決して分かり合えないのだと、ヤエは理解してしまったんじゃないかな。
 
ヒロタカの存在はある意味、ヤエにとって残酷だったと思います。もしヤエに一人でも、逃げてもいいよと言ってくれる人がいたら。そう思わずにはいられません。
 
深いところで、私はヒロタカの気持ちをわかりません。どちらかといえば、ヤエの方がわかるのです。
 
だってヒロタカは眩しすぎて、まるでフィクションの人みたいに思えます。
 
 
できる人が、できない人にできるハズって言うのはマズイんじゃないですか
 
 
ヒロタカは出会ってすぐの頃、ヤエにこう言いました。その言葉通り、ヤエにはヒロタカのようなことは、できないのです。
 
でもヒロタカは、ヤエに「やるしかないです」と言いました。でもそれは、ヤエには無理なんじゃないかなと思います。
 
ヒロタカはできる側の人間であり、そしてまたヤエは、できない側の人間なのです。
 
ただヒロタカは、ヒロタカなりに、それでもヤエを受け入れようとしていました。
 
 
オレと、いれば?
 
 
ヒロタカはヤエにこう言います。ヒロタカは、それでも彼女に近づこうとしました。
 
 
手紙も書くね
 
 
しかしヤエはこの言葉を最後に、生涯を閉じるのでした。
 

ヤエの死がもたらすもの

 
最後の彼女の笑顔を、私はずっと忘れられません。
 
手紙がヒロタカに送られることはなかったけれども、きっとそれでも、あの時言ったヤエの言葉は、心の底から出た気持ちだったのかもなぁ。じゃないと救われないですね。
 
願わくば、私はヤエに生きていてほしかった。めちゃくちゃになりながら、周りを振り回しながら、それでも生きていてほしかった。
 
私はだからずっと、何度もヤエがいたことを思い出すように、この本を読み返してしまいます。どうしても私は、ヤエのことを忘れることができないのです。
 
 
どうか優しい自分でいられるように
 
 
そうヒロタカは言いました。
 
もうちょっとだけ、ヤエが世界に対して優しかったら。もうちょっとだけ、世界がヤエに対して優しかったら。
 
そんなことを願わずには、いられないのです。
 
 
 

ヤサシイワタシ(1) (アフタヌーンコミックス)

ヤサシイワタシ(1) (アフタヌーンコミックス)

  • 作者:ひぐちアサ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/08/29
  • メディア: Kindle版

1巻だけだと物語のテーマが分かり辛いので、最後まで読むのがおすすめです。

 

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